愛するということ/Erich Fromm

私の本務校では図書館のウェブサイトに教員推薦図書を掲示しており,そこで先日,フロムの「愛するということ」を取り上げた.それに伴い,十数年ぶりに読み返してみたので,少しその話をしてみたい.

本書は名著として名高い「自由からの逃走」などで知られ,フロイト的な精神分析をベースにしながらより社会との関わりを強く意識した性格論を提唱したことでも知られるErich Frommの,もう一つの代表的とも言える著書である.

本書では,愛とは誰もが自然に浸ることの出来る感情ではなく,自らの人格を発達させ,それが生産的な方向に向くよう努力することによってのみ,成し遂げられるのだと述べている.つまり,いかにして人を愛することの出来る人間になるのかということは,いかに生きていくべきかに直結している.それが彼の主張である.

その主張を示すために,兄弟愛,母性愛,異性愛,自己愛に神の愛など,様々なあり得るべき愛の形を述べ,その上で現代(と言っても,50年前のことであるが,今にも十分通じると思われる)社会における愛の崩壊,つまり,現代がいかに愛するということの難しい社会かについて述べ,その上で,いかにして愛する能力を身につけていくべきかを説明している.

全体を通してシンプルに言うならば,1941年,まだ戦中にファシズムの勃興について述べた「自由からの逃走」以来連綿と主張され続けていた,権威主義的性格,サディズム,マゾヒズムといった性格特性からいかにして脱却し,自由で独立した個として社会に関わっていくべきかについて,愛という側面から触れ直したものと捉えることが出来るだろう.だが,題材が「愛」という,一見我々に身近に見えるものであり,だからこそより,問題の難しさ,大きさを感じさせるのだと思う.

本書を初めて読んだのは学部学生の頃だった訳だが,愛という言葉の持つ重みに圧倒されたのをよく覚えている.それと同時に,私は人を愛することの出来る人間になることが出来るのだろうかと悩んだ訳だが,その悩みは十数年経った今でも解決できていないような気がする.「愛」というのは熟々難しい.

愛するということ自由からの逃走 新版

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