2月 2nd, 2012 by Akihiro SAITO
1月の読書メーター
読んだ本の数:5冊
読んだページ数:2239ページ
ナイス数:16ナイス
武王の門〈下〉 (新潮文庫)
下巻の興味は今川了俊をいかに描くかに集中していた訳だが,その点ではかなり拍子抜け.少弐頼尚も,下巻で出てきてびっくりしたけど,引っ張った割に…という感じ.どちらも,飽くまでも引き立て役という扱いだった.このあたりは,後の作品における敵役の格好良さと比べると少々残念.史実にある程度忠実に物語を構成した結果,上巻最後の筑後川の戦いがクライマックスになってしまい,下巻に盛り上げ所がなかったのが原因なのだろう.そんな中で際立っていたのは城武顕か.「敵の本陣の前で死ね」のくだりの格好良さは流石北方謙三と唸らされる.
読了日:01月30日 著者:北方 謙三
武王の門〈上〉 (新潮文庫)
南北朝時代の九州を舞台にした歴史小説.舞台を九州のみに絞り込み,かつその全土を縦横に駆け巡るという形式は中々珍しいのかも知れない.北方流ハードボイルド歴史小説,と思って読むと,意外とオーソドックスな歴史小説の形態で若干面食らった.最強武将と少数の精鋭軍団,独自交易ルートに秘密部隊といった北方歴史小説のお約束は確かに既にあるが,主人公格の懐良親王と菊池武光に描写はかなり集中し,最強の敵役も今のところ登場している様子がない.歴史物としては最初の作品なので,この後ハードボイルドとの融合が図られたのだろうか.
読了日:01月28日 著者:北方 謙三
果しなき流れの果に (ハルキ文庫)
和製SFの極北とも言われる一冊.確かに,この430ページに詰め込まれた物語のスケールの壮大さには圧倒される.テーマそのものは時間とは,宇宙とは何か,また,過去の修正は許されるのかといった普遍的なものであるが,単なる普遍性の枠に収まらず,「果」を強烈に描き出した点が印象的.3章以降の所謂本編では,丁寧に読まないと所属陣営,いる時間空間上の位置など登場人物の立ち位置がわからなくなってしまうが,その読んでいて不安定な感じこそが,今自分がいる時間空間上の位置の,この物語における不安定さをより強く感じさせて面白い.
読了日:01月27日 著者:小松 左京
夢遊病者の姪 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 3‐2))
ガードナーの人気シリーズ,弁護士ペリイ・メイスン初期の人気作.話としては比較的淡々と進むが,法廷シーンのスリルは流石.序盤の何が何やらわからない展開の中に散りばめられた伏線の回収も見事で,飽きずに一気に読める一冊.フーダニットという点では,可能性を絞り込むのはそこまで難しくないか.
読了日:01月26日 著者:E・S・ガードナー
統計学を拓いた異才たち(日経ビジネス人文庫)
紅茶にミルクを注ぐのとミルクに紅茶を注ぐのとでは味が違う.それを見分けることが出来ると言った婦人に対して,天才R.A.フィッシャーはある実験を提案する….この有名なエピソードに始まって,20世紀の主要統計学者の人物評伝を軸に統計学史がわかりやすくまとめられている.これは楽しい一冊だ.恐らく,統計学の基礎を学習する際の副読本として,あるいは学習後に読み返して思い出すのが面白い読み方で,学習前に読むのは少々難しいかなという気がする.基本的には良書だが,訳の日本語の繋がりが若干変な部分が目につくのが少々残念.
読了日:01月18日 著者:デイヴィッド・サルツブルグ
2012年1月の読書メーターまとめ詳細
読書メーター
この投稿にタグはありません。
12月 17th, 2011 by Akihiro SAITO
11月の読書メーター
読んだ本の数:5冊
読んだページ数:1860ページ
ナイス数:22ナイス
食卓の情景 (新潮文庫)
何と言うか,端から端まで,作る方も食べる方も,正しく頑固親父である.そして,それがいい.食べることに限らず,生きることに全力であればこその精神的に豊かな生活であり,万事に徹底したこだわりなのだろう.今となってはグルメガイドとして使えるものでもないのだろうが,江戸の香りに思いを馳せながらの散歩の供にしてみたいところだ.
読了日:11月30日 著者:池波 正太郎
そうだったのか! 日本現代史 (そうだったのか! シリーズ) (集英社文庫)
池上彰の現代史シリーズ日本版.シリーズ他作品から続けて読むと,取り上げられた内容の違いに,日本という国が,様々な問題を抱えながらも,いかに平和に発展してきたかを思い知らされる.その分,また,日本については書きづらい部分もあるのか,他作品に比べて淡々としている感はあったが,三池闘争の迫力は中々.
読了日:11月22日 著者:池上 彰
神様のカルテ (小学館文庫)
医療現場を中心に,どれもどこかで聞いたような,実にベタなテーマをベタかつ綺麗にまとめ上げたという印象.まあ,ベタなテーマというのは,逆に言えば普遍的な問題とも言える訳で,その意味で,繰り返し取り上げられ,読まれるのは自然なことなのかも知れない.登場人物は中々に魅力的で,あっさり読めて,程良く感傷的な気分にもさせてくれ,読後感も悪くない.なるほど,ドラマや映画の原作には最適なんだろうなと思う.学士殿旅立ちのエピソードは中々.
読了日:11月14日 著者:夏川 草介
そうだったのか! 現代史パート2 (そうだったのか! シリーズ) (集英社文庫)
池上彰によるわかりやすい現代史の続編.前著が戦後史の中心部だとすれば,本著はその周辺+続きといったところか.特に,アジアや中東の各国が取り上げられている点が注目に値する.と言っても,どのテーマもその重要性に間違いはなく,特に核兵器の仕組みや核開発競争,チェルノブイリについてなど,今だからこそ知っておくべき話題が多い.それにしても,チェルノブイリ後のソ連政府の対応と,フクシマ後の日本政府の対応,あまりに重なる点が多く,批判とかではなく,こうなってしまうものなのだなという印象だ.
読了日:11月11日 著者:池上 彰
グレート・ギャッツビー (光文社古典新訳文庫)
アメリカ文学屈指の名作とも言われる一冊.確かにこの作品はアメリカだ.一見アメリカンドリームの体現者であるギャッツビー,絵に描いたようなジョックであるトム,その妻で上流の世界しか知らないデイジー.アメリカンドリームは未来にしかなく,過去を求めることは悲劇にしか繋がらないということなのだろうか.ギャッツビーの強かでありながら,純粋で不器用,そうであるが故に時として滑稽な成り上がり者になってしまっている点も却って魅力的.村上春樹訳はかなり雰囲気が違うようなので,そちらも読んでみたい.巻末の解説がわかりやすい.
読了日:11月08日 著者:F.スコット フィッツジェラルド
2011年11月の読書メーターまとめ詳細
読書メーター
この投稿にタグはありません。
11月 2nd, 2011 by Akihiro SAITO
10月の読書メーター
読んだ本の数:5冊
読んだページ数:1692ページ
ナイス数:6ナイス
バーにかかってきた電話 (ハヤカワ文庫JA)
大泉洋主演の映画,「探偵はBarにいる」の原作.チャンドラーの香りを感じさせつつも,軽妙さ,滑稽さがスパイスとして効いた良質の和風ハードボイルドといった印象.アクションのイメージは黒澤なのだろうか?ストーリーに関しては,最初に映画を見たもので特別に印象はないが,小説の形で読むと,沙織の登場が若干唐突で,もう少し早い段階で出てきて物語に絡んでいても良かったのではないかという点と,最後が主人公の手を離れて進み過ぎてしまっている印象なのが少々残念だ.
読了日:10月31日 著者:東 直己
むかしの味 (新潮文庫)
池波正太郎お得意の「食」エッセイ.タイトルの「むかしの味」は,師匠である長谷川伸が料理を褒めるときに使った言葉である.その言葉通り,昔ながらのこだわりを持った良店を紹介している訳だが,その食べ物,それを取り巻くエピソードは流石.単純な美味の追及に留まらず,よい店とはどういうものなのか,料理に向かう姿勢など丁寧に描いている.無論,料理の描写も素晴らしく,紹介されている店,どれも一度は行ってみたくなるものばかりだ.
読了日:10月29日 著者:池波 正太郎
江戸の味を食べたくなって (新潮文庫)
「江戸の味」とタイトルに入ってはいるが,江戸の味について語っているのは最初の半分くらいか.あとは「男の作法」的な話とフランス旅行記.それはそれで面白いが,若干肩すかしにあった気分は否めない.そういった多少の不満はあるものの,第一部,味の歳時記は文句なしだ.この味覚と季節感との完璧とも言える結合,食べ物だけじゃなく,食べ物を取り巻く情景,空気まで伝わってきそうだ.
読了日:10月27日 著者:池波 正太郎
男の作法 (新潮文庫)
大正生まれの著者が,30年前の若者に向けて「最近の若者は」と言っている訳で,書かれていることのすべてがすべて今に通用するかと言われると,そうではない.ただ,その考え抜かれたこだわり,姿勢そのものは,今でも十分に通用するものだと思う.食べ物にしても服装にしても「○○するのが通だから」そうするのではない.何故そうであるのか,きちんと説明できてこそのこだわりなのだ.その意味で言えば,本書に書かれている作法を守らなければならないのではない.たとえ違っていたとしても,その人なりの合理性があってこその作法なのだろう.
読了日:10月26日 著者:池波 正太郎
ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)
「ギムレットには早すぎる」,「さよならを言うのは,少しだけ死ぬことだ」などの名台詞で知られるハードボイルドの金字塔の,村上春樹による新訳.ちなみにこの名台詞,後者はチャンドラーのオリジナルではないのだそうで.大仰な台詞回しもクールでタフを絵に描いたような造形も,嫌味に感じる人には全く受け容れられないだろうし,好きな人はとことん好きになるだろう.そういう意味で,これぞハードボイルドとしか言いようがない.ちなみに私は好きな方.計算されたストーリーも悪くはないが,やはり雰囲気を楽しむのが大事な小説だろう.
読了日:10月22日 著者:レイモンド・チャンドラー
2011年10月の読書メーターまとめ詳細
読書メーター
この投稿にタグはありません。
9月 28th, 2011 by Akihiro SAITO
8月の読書メーター
読んだ本の数:4冊
読んだページ数:1487ページ
ナイス数:9ナイス
血涙(下) (PHP文庫)
役割を終えた者同士の,自らを滅ぼすための戦いとでも言うべきだろうか.どう足掻いても悲劇にしかなり得ない戦いの中であればこそ,その生き様,死に様は鮮烈で,最早,戦いに意味や目的を求めることすら無粋に思える程だ.また,生き残った女同士の語りが一層滅びの美しさを引き立てている.「いいえ.草原で死んだ男たちに,それでは失礼というものですよ」
読了日:08月25日 著者:北方 謙三
血涙(上) (PHP文庫)
ついに吹毛剣登場,の楊家将続編.楊家将本編を通して主要登場人物がしっかり描写されていただけに,本編以上に登場人物の個性が際立ち,面白さも増しているように思う.
読了日:08月23日 著者:北方 謙三
楊家将〈下〉 (PHP文庫)
上下巻ということで,下巻で一気に話が展開.やはり,死に様の格好良さ,その描写は圧倒的だ.ただ残念なのは,上下巻の短い話では,それなりに人数のいる人物の描写が不十分になってしまっている点だ.楊家の兄弟でも,何人かはどんな人物なのかすらよくわからなかった.楊業本人すら不十分に感じる程だ.敵役の耶律休哥の方が寧ろ丁寧に描かれていただろう.勿論何人かは丁寧に描写されているが,それは寧ろ,続編の血涙のためとも見える.そういう意味では,タイトル上はここで一旦完結だが,ここまでしか読んでない段階で評価を下すのは早計か.
読了日:08月15日 著者:北方 謙三
楊家将〈上〉 (PHP文庫)
北方謙三の歴史物と言うことで,相変わらず男が生き様,死に様の格好良さを競い合う話といった感じ.上巻は,まだ話が大きく動かず,それぞれの登場人物を描写がメインと言えるだろう.ここで徹底的に魅力的に描写し,死に様で輝かせるのが北方謙三な訳で.
読了日:08月15日 著者:北方 謙三
読書メーター
この投稿にタグはありません。